2010年10月6日水曜日

ガラパゴス基礎知識その2:環境

¡Hola!
今日は、諸島の環境についてお話しします。

ガラパゴス諸島は総面積の約97%が国立公園に指定されており、その貴重な自然と適切な土地利用(ゾーニング)が評価されて、世界初の世界自然遺産(陸域、UNESCO1978年)に登録されました(その後2001年に周辺海域も世界遺産に登録)。
これらの地域では居住はおろか上陸も自由にはできません。観光客は15人につき1人のナチュラリストガイドを雇い、国立公園によって決められたルールを遵守して行動する義務があります。いかなる動植物をも傷つけたり、手を触れたり、石ですら動かしてはなりません(動物が移動の指標にしている可能性があるため)。
ナチュラリストガイドによるガイディングの様子。

なぜそんなに厳重に守られているのでしょうか。
「海洋島では特殊な生態系が成立している」ことがその理由です。これは研究の過程も含めてこれからゆっくり書いていきたいと思います。

今日はざっくりまとめてみます。
海洋島には大陸とは異なる生物が生息しています。その多くは世界中にこの島にしか存在しない「固有種(endemic species)」と呼ばれるものです。固有種は、何らかの方法でこの島に進入できた生物種を祖先として、それぞれ島の環境に合わせて独自の進化を遂げたことによって生まれた種です。ですからその島の環境に合った形態・性質・遺伝子を持っているのです。

固有種スカレシア(special thanks, Reo Okuno

これはキク科のスカレシアという植物です。キク科のほとんどは草本なのですが、ガラパゴスには樹木の種子が到着しにくかったために、本来草本であるはずのキク科植物が樹木の占めるべき生態的地位(ニッチ)に進出する形で適応進化し、このような巨木になったと考えられています。これだけ大きいとキクの仲間には見えませんが、芽生えはまさにヒマワリのようです。写真のスカレシアは2007年に植林されたもので、わずか3年で5mほどの高さまで一気に生長することがわかります。

さて、海を越えて生物が進入できる何らかの方法とは何でしょうか。
大きく分けて鳥(Wing)、風(Wind)、波(Wave)の3つです。これら3Wが、海洋島に生物をもたらす重要なツールです。ただしすべての生物がこれらのツールを利用できるわけではないので、必然的に海洋島にたどりつける生物種は限られてくるのです。

例えば海水につかると発芽能力を失ったり、海水に沈むタネはWaveを利用できない。Modification by S.Taga #

ガラパゴス諸島ではこのような少ないチャンスを得て運ばれ適応進化した大陸とは異なる種が生息しているわけですが、さらにそれぞれの島の環境に合わせて適応し生物たちが進化しています(群島効果)。
これはそれぞれの島の大きさや標高、位置関係などによって、降水量や風の強さ、島が持っているキャパシティーが異なるために生じる環境の違いが影響しています。そのため固有率が非常に高く、種子植物の51.8%、陸産爬虫類の100%、陸産貝類の96.4%、哺乳類の34.8%が固有種です。これは仮にある島のある生物集団が消滅したら、この世からその種が永遠に絶滅してしまうことを意味しています。

近年、観光客や人口の増加に伴って環境が悪化し、2007年には危機遺産リストに入ってしましました(2010年、ソーラー発電と移住禁止政策が評価され危機遺産リストからは外れた)。人間の暮らしと自然環境との両立をはかるのは簡単なことではありません。生物の楽園だったガラパゴスの特殊な環境に適応進化した生物たちと共存していくために(=地球上の生物多様性を保全するために)は、厳重な管理と保護が必要になってくるのです。(20101011日から愛知で行われる「生物多様性条約第10回締約国会議(http://www.cop10.jp/aichi-nagoya/index.html)」を参照してください)

観光に来るだけでも、破壊は起こります。そのことを少しでも気にかけながらこの自然を楽しんでほしいと思います。(もちろん住んでいる自分も破壊者の一人ですが)

ちなみに、ITを中心に世界基準に対応できない日本企業の技術に対して「ガラパゴス化」という言葉が使われていますが、海洋で隔離されていたおかげで生物が独自の進化・多様化を遂げた素晴らしい環境であるガラパゴスを、このような比喩として用いるのは適切な使い方ではありません。

*引用文献:
ガラパゴスのふしぎ(NPO法人日本ガラパゴスの会、2010年)
#) 原画は「小笠原諸島に学ぶ進化論」清水善和著(技術評論社、2010年)
今日のキーワード:
固有種、生態的地位(ニッチ)、3W、群島効果、生物多様性

次回は生物の進化(多様化)のメカニズムについてお話します。

Chau!

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