2010年11月30日火曜日

フィールド調査in ISA(4)

昨日取れなかった対象種を探しに、今日もまた農業地域へ出動です。
実はサンタクルス島でも一切見つからなかった種なので、アタリをつけようにも全く想像できません。私の感覚では類縁の日本にもある種と似た環境にあると想定しているのですが、もしかすると全く異なる場所に適応進化しているのかも知れない?

とりあえず当てのない旅に出ます。
こんなとこや

こんなとこも…
やっぱり見つかりません。似たようなものがあって、ぬか喜び。かえって疲れます。。。

あきらめていったんランチへ。
午後。今度は乾燥地域を探します。見渡す限りどこにもありません。
今日の収穫は、昨日数が不足していたフウセンカズラとペチュニアの数がそろったこと。

なんとなーくうまくいったような、いかなかったような。不完全燃焼です。しかもパーミッションの関係でほんのわずかな葉や花を持ち帰るだけ。なんだか採集した気にもなりません。

明日はいよいよシエラネグラ火山へペルネチアを探しに出かけます。ペルネチアは以前にも書いたように、サンタクルス島セロクロッカーと、ここイサベラ島シエラネグラにしかないのです。

はたしてうまく見つかるのかどうか。。。
つづく。

2010年11月26日金曜日

フィールド調査in ISA(3)

昼過ぎまで農業地域にいたので、午後は街から農業地域までの道沿いを散策です。道沿いの風景は、こんな感じ。

イサベラ島は諸島の中では比較的新しい島なので、このようにまだそれほど風化が進んでいないラバフィールドを見ることができます。こういったまだ一枚岩のようなところには、ハシラサボテンCommon nameCandelabro,”枝付き燭台”の意。よくぞ名づけた)。

もうちょっと風化が進んで他の植物も生えられるようになったところには、ウチワサボテンTuna gigante。名前の通り、大木です。

同じサボテンでも、ほんのちょっとした環境の違いですみ分けているのですね。

ここではちょっと乾燥が好きな種をアテにしているのですが、うーーーん。なかなか見つかりません。
やっと見つけたのは、わずか2個体のフウセンカズラ、それから午前中に見つけたPhoradendronは、こんな乾燥した場所にもあるようです。乾燥した場所では地衣類がつかないので、かなりキレイです。ちょっと意外な感じです。(この情報が、次に探すときの感覚として蓄積されるのです。)

ぶらぶら歩いていて、踏みそうになったとある植物。。

おおおおおーーーー!サンタクルス島であれだけ探してもなかった、海浜植物のガラパゴスペチュニア(Exedeconus miersiiLC))を発見。

小さくて、全体に生えた毛からべたべたの蜜を出しています。写真で見るよりもやわらかくてかわいらしい白いラッパ型の花。Common nameを「Trompeta de orilla(海辺のトランペット)」といいます。本物の方がかわいいなぁ。たった3個体ですが、とりあえず採集です。

そんなこんなでそれなりに満足して、第1日目は終了となったのでした。

つづく。

2010年11月22日月曜日

フィールド調査in ISA(2)

翌朝、さっそく植物探しに出かけます。対象種によって生育環境が異なるので、まずはサンタクルス島で得た情報からの感覚で「ありそうかなさそうか」アタリをつけます。(ここが最も重要)

今回は大きく分けて3つの地域に採集に出かけます。すなわち;árida(乾燥)、agrícola(農業地域)、そしてVolcán Sierra Negra(火山)。それぞれの場所でどれが取れそうなのか見極めて、それから具体的に行く場所を決めます。まずagrícolaが最も対象種が多そうなのでまずそこへ行くことにしました。やはりサンタクルスとは気候条件がちょっと違うので、みつかるまではただひたすら探すしかありません。


馬に先導され、窓の外の植物を見ながらひどいがたがた道を行くので、ムチ打ち状態です。目が慣れるまでは全く見つかりません。
そして行けども行けども風景は変わりません。「農業地域」をナメテマシタ。農業地域には村があって、野菜を作ったり酪農したりしているんだと思っていました。でも実際はただ広大な土地に、牛や馬が草を食んでいるだけ。。。ほとんどの農家は、街から必要なときに通っているだけのようです。迷子になったら遭難です。

ガイドはおやつにオレンジを調達してきました。

まあ褒められた行いでもないですし、そもそもフィールドワーク中に果物を食べてはいけない(タネを散布してしまうとか毒をもつものがあるなどの理由で)規定なので、その場ではすぐにしまいましたが、樹で完熟したオレンジって、香りは高いしものすごく甘くて、世の中にこんなにおいしいものがあったのかと感動を覚えるほどでした。日本では何でも手に入るけど、本当においしい状態で食べていないんだなあと改めて実感。もうしばらく日本でオレンジは食べられなそうです。

そうこうするうち、ようやくPassiflora1種を見つけ、歩いて採集です。すると続けてPhoradendronも発見。まずますです。
結局午前中いっぱいかかってこの2種を採取し、ランチに街まで下りでから午後の作業に入ります。
霧雨に濡れて、すっかり冷え切ってしまいました。

つづく。

2010年11月18日木曜日

フィールド調査in ISA(1)

今日は初めてサンタクルス島を脱出して、他の島へサンプリングに出かけます。
と簡単に言いましたが、実は結構たいへんな作業です。

まず朝9時に、セキュリティオフィサーRobyのところへすべての荷物を持って出頭しました。そう、検疫です。ガラパゴス諸島では、島ごとに異なる生物が住んでいるので、人為的に移動しないよう細心の注意が必要なのです。そのためすべての荷物をチェックし、トランクや服のポケット、靴の裏に至るまで、昆虫や種や土がついていないかチェックするのです。

でも今回はあちらも人の住んでいる島なので、すでにいくらかの生物が移動をしていますし、観光客も滞在できるので、注意の度合いは低めです。30分ほどで終了し(無人島の場合は指定の袋へ詰めて消毒殺虫し、所定の梱包をしてから24時間別室に隔離したのち、そのまま船に積み込む)、いったん自宅へ帰ります。
13時過ぎに港へ向かいます。自宅前でタクシーを拾い、「Puerto, Por Favor !」というと、港のはずれの小屋まで連れていかれました。

観光客もこのように一応検疫を受けるのですね。特に検疫官が気にするのは、果物を持っていないかということです。タネがばらまかれるのを警戒しているのです。それにしてもこのわんちゃん、よくはたらきます。

そうこうして(ここでもかなり混乱があったけど)いよいよ14時過ぎ、船に乗り込んでいざしゅっぱーつ。
ゆっくり動き出して、青い空、碧の海、きれいだなー。

とおもったら、
ですよねー。Fast boatなので、こんなことだろうと思っていました。実は船はかなり苦手です。時速およそ45キロで1時間半(GPSで確認する余裕があったのがむしろ不思議)。ファストボートは酔ってる暇もないので安心です?

波の合間をカッとんで、激しくシェイクされて脳みそが液状化しかけたころ、ようやくイサベラに到着しました。
イサベラは、ほんの数分で気に入りました。やや風化した茶色いパホエホエ溶岩が縄状の文様を描き、舗装道路なんてどこにもない田舎街。ガラパゴスの夕方6時がこんなに暗かったことに、初めて気が付きました。暗くなっても何の不安もない落ち着いた街並みと親切な人たち。

さらに着いて早々お出迎えくださった、フラミンゴ一家。
生物だけではなくて、人間にとっても「最後の楽園」なのかもしれません。

ホテルの目の真ん前が海で、波の音がすごいので寝られるかしら?
というわけで、明日は農業地域のあたりに出かけてきます。

つづく。

2010年11月13日土曜日

リサイクルセンター

¡ Hola !
今日はちょっと別の話題を。 

途上国で仕事をしていることが多い関係で、日本に帰るといつも「生きるってお金かかるんだなぁ」と思ったり、学生時代に所属が変わるたびに転々と引越しをしていた時には「生きてるとただひたすら荷物が増えていくんだなぁ」とか思っていたのですが、今日また新たに一つ発見。
「生きるってことは、ごみを出すことなんだ!」

先日、JICAのゴミ処理専門家として派遣されている熊谷さんの仕事場:リサイクルセンターを見学してきました。彼女は某大学の修士課程の学生さんでもあるのですが、途上国でのごみ処理のモニタリングを中心に仕事をされています。

ガラパゴスではごみは3種類に分別して捨てます。すなわち;RecyclableOrganicNonrecyclableです。さて、それぞれの中身にピンときますか?リサイクルできるものとは日本と同じ、ビン、缶、ボトル類(あと一応ダンボール)です。街中にも、きちんと分別して捨てられるようにごみ箱が設置されています。
あとの2つはちょっとピンとこないですよね。
Organicは有機物、すなわち残飯など比較的短期間に分解するいわゆる生ごみです。そしてNonrecyclableはそのほかのすべてです。なぜこのような分別方法なのでしょうか。

ガラパゴスでは、ビンや缶のリサイクルは実際にはできません。これらのごみは圧縮して大陸のグアヤキルへ送り、そちらでリサイクルに回しています。島の中では正しく分別し、船に乗せるまでの処理となります。
なかなか大変な作業です。

オーガニックはどうしているのでしょう?
!!!薄く敷いたおがくずの上に、重機を使って「Organic」として回収されたごみを振り分けていきます。辺りは当然すごい臭いです。生ごみはちゃんと分別されていなかったり、ビニル袋に幾重にも入っていたりするので、分解しないものをひたすら手作業で選り分けていくのです途上国とはいえ比較的豊かなこの島では、残飯も大量に出ているようです。リンゴやコメがそのまま出てきたりもします。もったいない。。。

こうして不純物を除いた生ごみは、おがくずと牛糞を混ぜて、奥にある円筒形の機械に入れられます。丸1日もすると、堆肥のもとが出来上がります。これをしばらく発酵させて、栄養たっぷりの堆肥が出来上がるのです。
牛糞は農業地区の農家へもらいに行き、できた堆肥は農業地区の農家が買っていきます(15$)。
おぉー、ちゃんと「リサイクル」できているではないですか!
でもちょっと待って、こうしてものすごい手間暇をかけて生ごみがちゃんとリサイクルされていることを、ほとんどの人は知りません。ごみというとどうしても敬遠しがちです。自分の家から出してしまったらおしまい、なのではなく、その先どうなっていくのか、どれくらい手間がかかっているのか、作業する人がどんなに大変なのかを知るだけでも、たぶん意識は変わるはずです。(もちろん日本でも)

ちなみにNonrecyclableの方はどうなっているかというと、ここには焼却施設がないので島の裏側へ運ばれ埋め立て(正確にはオープンダンピング)ています。こちらの方がごみの総量としては莫大な量となっているはずです。そういえばずいぶん前にテレビ番組で「フィンチがゴミをあさっている風景」が流されたことがありましたが、その埋立地のことのようです。その時のコメントは「観光客が増えてごみ問題が深刻になり、積まれたゴミをフィンチがあさっているために嘴がまた進化している」というものでした(いろいろな部分で突っ込み処満載ですが、差し控えます)。
それから「エコ」だと謳っているクルーズ船でも、欧米人が中心なので浪費が贅沢のような感覚で運行しているものも多いようです(客が変わったら使いかけのロールペーパーはすべて廃棄とか)。なんだかんだ言っても、やはり人がいるだけで環境に負荷をかけていることに間違いありません。

ガラパゴスのごみ処理は、完全ではないにせよ途上国の中ではかなり優良なしくみで成り立っているようでした。でも生きていれば必ずごみが出てしまいます。生活者一人一人が少し意識の持ち方を変えるだけで、それを減量することができるのではないかと思いました。最近「リサイクルはエネルギーもコストもかかるので意味がない」という議論も流行っているようですが、限られた資源、限られた捨て場であることを考えれば、単にリサイクルがエネルギーの無駄とは言い切れないのではないかとも思います。環境問題は多面的なものなので、一元的な意見に大衆が流されてしまうことに不安を覚えます。

先日の野焼きにしてもNonrecyclableの今後にしても、世界遺産でのごみ問題、まだまだいろいろありそうです。

¡ Chau !

2010年11月8日月曜日

サンプルの処理

さて、とってきたサンプルは当然、適切な処理をしなければなりません。
乾燥標本であれば適切な頻度で新聞紙を交換しながら完全に乾くまでケアしなければならないですし、液浸標本は(本当はエタノール、酢酸、ホルマリンの混合液に漬けたいのですが、こういった場所では廃液処理の問題でできないので)薬局で買ってきた消毒用アルコールを適切な濃度に薄め、様子を見ながら液を交換しなければなりません。特にDNA用のサンプルは、放っておくとDNAが分解して使い物にならなくなってしまうので、早急に処理を行う必要があります。

フィールド調査では、昼間外を歩き回っているので相当疲れているのですが、どんなに夜中になろうともその日のうちに処理してしまうのが鉄則です。標本が古くなって状態が悪くなる上に、次の日にはまたサンプルが増えてしまうからです。

眠い目をこすりながらのサンプル処理。意識が朦朧とします。


これはDNA用のサンプル。


以前はシリカゲルに1個体ずつ識別できるように保管しなければならなかったので荷物が増えて大変だったのですが、最近は技術が発達して、このように植物の汁をしみこませるだけでいい、ものすごく便利な魔法のろ紙(FTA Elute micro card, Whatman)が開発されています。(ただしこれに向かない植物もけっこうあるので、それらは昔ながらの方法で急速に乾燥させる必要がありました。またろ紙の単価が相当に高いので、かなり真剣に節約をしています;)

それから形態計測のための画像スキャンと液浸標本をつくって、一日が終わります。

あぁつかれた、おやすみなさい。。。

2010年11月4日木曜日

フィールド調査in SCZ(5)

ペルネチアの話―

相変わらず深い霧の中です。寒いし、疲れたし、足元は悪いし、休憩しようにも周囲は泥だらけで腰を下ろす場所もありません。Joséがリンゴをくれたので、かじりながら歩くことにしました。


しかし足を置く場所を考えながら、植物を探して、さらにリンゴをかじるのは至難の業です。もう頭が混乱して、何をしているのか自分でもよくわからなくなってきました。。。

以前にとられている標本から、標高や周囲の環境に関する情報を頭に入れてきました。それらしき場所を探してもありません。もうちょっと行ってダメなら戻ろう、と言いながら島の南北を分ける尾根線上に到達しました。ものすごい風が吹きあがってきます。もちろん霧雨とともに。

そのとき、「ここにあるな」と確信しました。今探している対象種は、コメツツジの仲間です。はるか昔小学生のころ、1年にたった1日しか公開していない箱根の二子山でハコネコメツツジを見たときのことを思い出したのです。あのとき霧雨と吹き上げてくる冷たい風に震えながらコメツツジの花を見ました。風衝群落で小型矮小化してしまったコメツツジをみて、「コメツツジの気持ちがわかる」とつぶやいたあの場所と、よく似ているではないですか。

案の定、尾根線の茂みの中に、ペルネチアはありました。


この感動、お伝えしきれないのが残念です。やっぱりペルネチアもまた、寒さに震えながらけなげにかわいらしい花を咲かせていました。小さくて硬い葉っぱも、ちょっとピンクがかった白い釣鐘状の花も、こんなに小さいのに頑張って生きてる感じが愛おしくてたまりません。

ペルネチア(Pernettya howellii)もまた、絶滅危惧種(EN)で、ガラパゴス諸島の中でもここと、イサベラ島の高地にしかありません。(近縁種が南米大陸にあるという話ですが、一度見てみたいです。もしかするとここのペルネチアのご先祖でしょうか?)研究のためとはいえ傷つけてしまうことに申し訳なさを感じながら、ほんの少しだけ枝をもらうことにしました。

さあ、相変わらずの悪路ですが帰りは早いです。こんなきれいなものにも目をやる余裕ができたりして。


滑らないように気を付けながら泥まみれになりながら、途中でミコニアも採取して、どうにか無事に下山しました。

サンタクルス島の高地は、世界に二つとない美しい場所でした。
あらためて、自然に感謝です。

<SCZ採集記・完>