2011年1月27日木曜日

フィールド調査in SCB(5)

今日は島の裏側、Rosa Blancaへ行きます。
道はなくボートをチャーターしていくので、許可のある人のみが立ち入れるという意味では無人島に匹敵する貴重なフィールドです。でもジェフェリーが手配したパンガは、漁船?小さくて日よけもライフジャケットもなく、かなりの不安がよぎります。

…案の定、出航して1分で悲鳴、3分で楽しくなってきちゃいました♪
波が来ると投げ出されそうになるしカッパを着ているのに全身ずぶ濡れ。本格的に命の心配が…。もちろん酔ってる暇なんてあるわけがありません。船のヘリに着いた片手だけが、自分を支えているという状況。一眼レフを守るのに必死です。波の上をジャンプ!ひゅ~~♪あ、ウミガメだ~。ウミガメって泳ぐの下手ですね。泳ぐってより、おぼれてるって感じ。もし投げ出されたら竜宮城へ連れて行ってね。

そんなこんなで1時間半、ようやく船はきれいな碧の湾へ入りました。
着いたらまず、塩水でびちょびちょのエクイップメントを乾かす作業。
…うん、笑える。

見渡せば、美しい砂浜の向こうには果てしない荒野が広がっています。他に人が誰もいない、というのはある種の畏さを感じます。ところどころにヤギの屍(おそらく人為的に持ち込まれて増えたものを駆除した)が転がっていたりして、ますます……そして、とても静か。

人間コンパスのジェフェリーは丘の方向を指さしながら行く方向を決めていきます。彼の頭には地図も入っているらしい。こうなるともはやマジックですね。
足元の岩は、溶岩が物理的風化を受けて大まかに砕かれた状況で、手をつくと突き刺さるし、足を置くとまるで素焼きの鉢を砕くような甲高い音を立ててガラガラと崩れます。
中が空洞になったタワーのような岩の中には、上面を踏み抜いて落ち、そこで息絶えたヤギの白骨が転がっていました。どんな絶望的な思いで、小さな穴からふりそそぐ日の光を、青い空を仰ぎ見たことでしょう。Robyに最初に言われた、“重篤なケガークリフは崩れやすく容易に踏み抜くので注意―”の怖さを初めて現実的に受け止めました。あれは脅しなんかじゃなかったんだ。
日差しはただただ強烈なのに、この静けさに背中が寒い。これが“無人”ということなのか、そして自然界の厳しさを間近に感じるからなのか…

ここにきたのはいまだ発見できていないPhysalis(固有のホオズキ)を探すためです。確かにその植物はそこにいました、でも…
ですよねー、こんなカラッカラの場所に、Physalisが生きてるとは思わなかったよ。
雨季の2月から6月くらいまでは青々と茂っているらしいのですが、今目の前にあるこの荒れ果てた荒野に緑が茂る図を想像することはできません…それに、ここまでまた来るの?むりだわー。
ちょっとげんなりしつつも、Calamdoniaの保護地域と、昨日とは形態の異なるLecocarpusを案内してもらって、船に戻りました。

仕方ないので退散です。元来た道を帰る方が距離は近いのですが、逆回りの方が波が静かだといわれ、島を一周することになりました。東のはずれにはカツオドリの営巣地もあるとか。
おーー。カツオドリが船めがけて飛んでくる。ガラパゴスにはアオアシ、アカアシ、ナスカ、3種類のカツオドリがいます。それぞれ顔も習性も違うらしいのですが…まだすべてを見ていないのでよくわかりません。英名での呼び名「ブービー」にはあまり名誉なイメージがありませんが、陸上ではペンギン並みに鈍くさい感じがしてしまうからなのでしょうか。(かわいそうに…)

ちょっと寄り道して、アカアシさんのお宅へお邪魔。
かわい~。アカアシは美人系統の顔立ちですね。手前の白い塊は、ヒナです。おおきくなれよ~。

サンクリストバルは島自体が古いので、様々な風化地形を見ることができます。有名なキッカーロック、壁のようにそびえる山、船でくぐれる岩など、穏やかな波にこれらを鑑賞する余裕も生まれます。カモメの群れがずっと船の右行ったり左行ったり、かっこよすぎます。
わずか1.5時間で港まで帰着(ん?感覚が鈍くなったからかほとんど波をかぶらなかったような)。しかし一日中“新しい”ことの連続でクタクタで口をきく元気もありません。全身に浴びた塩で、すべてがベタベタ。洗うのが大変だ~。

体験が重要、と日ごろから言っているけど、まだまだ世界には知らないことが山ほどあると思った一日でした。

2011年1月22日土曜日

フィールド調査in SCB(4)

次に向かったのは、島の裏側にあたるCerro Coloradoです。霧の中を下っていくと、今度は乾燥した山々が見渡せるようになります。ほんのちょっと移動するだけでこんなにも条件が変わるあたり、この諸島の環境傾斜が面積の割に非常に大きいことがよくわかります。

ここにはサンクリストバル島に固有のCalandirinia galapagosaCR; Critically endangered)の保全区域があります。
岩に張り付くように生育するこの種は乾季の今はこんなですが、花はとても美しく、図鑑で見たときに一目見て惹きつけられました。本当のことを言うとこの種を研究対象に入れたかったのですが、コンサベーションステイタスがCRと高めなので、いろいろと手続きが煩雑な予感がして外していたのでした。結果的にPattyが同じ発想の研究をすでにやっていて、もうすぐPublishされる論文*を見せてもらいましたが、とても興味深い結果がでていました。

*Jaramillo P. and Atkinson R. (Biotropica, in Press), Evaluation genetic diversity for the conservation of the threatened Galapagos endemic Calandorinia galapagosa (Portulacaceae)

これまでの感じで、こういう場所だとだいたい何がとれるのかわかっています。ここではPhoradendronを採取。ずんずん進んでいくと…
…行く手を、絶滅危惧種にさえぎられるという、幸せ。(アブナイ?)

これは英名をDarwins Shrub、学名にもダーウィンの名を冠したLecocurpus darwiniiという植物で、これまたサンクリストバル固有種です。Lecocurpus属はガラパゴス諸島に固有の属で、さらに全3種はそれぞれ1つの島ずつにしかない、非常に限られた分布を示しています。何かとんでもなく重要な生態的な特性によって、島ごとの環境に厳密に適応してしまったためにこのような分布域をとるのではないかと考えられており、形態的多様性と1種については生態的特性についてもすでに研究がなされています。
普通の人が見ると「ただの菊じゃん?」と思われるかもしれませんが、こんなにも貴重な固有種が目の前にあると、ついついニヤッとしてしまいますね。うしし。

さらにありそうなCardiospermumもさがしてみますが、C. galapagensisは見つかりません。でもこれまで見ることができなかったC. corindumを初めて発見しました!
葉っぱの感じが図鑑の写真でみたのよりも厚くて、なんか予想外です。EndemicではなくNativeだしオーナメンタルに使うとあったので、日本のフウセンカズラのようなのを想像していたのですが、ここではやはり乾燥適応しているようです。実はほんとにかわいいですね。英名をheart seedといいますが、これは種子が黒地に白いハート形模様がついているからです。スペイン語名ではなんと「huevo frito(卵の天ぷら)」といいます。たぶん果実を表現したもののようですが、卵、、、?ふんわりした実からイメージしたのかな?

予想以上にとれたのでサンプルの処理が大変です。

2011年1月16日日曜日

フィールド調査in SCB(3)

朝…
8時の約束に間に合うようにちゃんと起きたし、朝食も買っておいてあったのに。
起きてみると非常事態でした。壁を伝って無数のアリが、私の朝ごはんに群がっている…(泣;;)
うっかりしていました。それくらいのことは想定していなくてはフィールド屋失格です。

時間よりも早く来たJefelysに早く早くと急かされながら、アリのお好みではなかったパンをかじりながら車に乗り込みます。今日はかなり期待できる日程です。

まずは海岸沿いのLoberiaへ。ここでは海辺のトランペット(Exodeconus miersii)を無事に採取。
公園職員でもあるJefelysは、落ちているごみを拾いながら、あっという間に対象種を見つけます。たぶん微妙な葉の緑色の違いを遠くから認識して判断している様子…出だし好調です。

次に、ガラパゴス諸島唯一の淡水湖、El Juncoへ行きます。標高が上がるにつれて霧が出始めました。そう、サンタクルス高地と同じような風景に変わっていきます。しばらくすると、道沿いにもあのミコニアが点在し始めました。
前述のようにミコニアは、サンタクルス島とサンクリストバル島の高地にのみ生育する固有種で、ここサンクリストバルでは天然林と、放牧地跡などを復元した植栽林(約20年経過)の両方があるそうです。…ということは?両方の遺伝的多様性を調べたりすると面白いかもしれませんね?
というわけで、公園職員Jefelysはこの辺りの事情にも詳しく、きちんと天然林と植栽林の両方から、サンプルを調達することができました。
これでミコニアのサンプリングは終わりです。解析の計画でも立てることにしましょう♪

霧にまかれて、残念ながらEl Juncoの写真は撮れませんでした。晴れていれば風力発電の風車も見ることができたようです。この淡水は、生活水として利用されているのか?この風車で作られた電気はどこで何に利用されているのか?聞きたいことが沢山あるのですが、スペイン語が不自由でなかなか解決しません。文字通り、「言葉の壁」です。こまった。

それと、、、環境条件がこんなにも似ているのに、なぜここにはPernettyaがないのでしょうか、、、?
こういった現象はかなりたくさんあるらしく、まったくもって理解不能です。もちろん島が海によって隔離されているから移動が困難、というのはわかります。それがむしろ進化の原動力であったという話は、私自身授業を通してよくしゃべっていることです。でも1つの島でかなり広く分布している種が、隣の島で全くないというのは、どういうことなのでしょうか。氷期には完全につながらないまでも島間の距離は縮んだはずですし、鳥が食べて散布することも、近い島同士なら可能な気がします。
真実は小説よりも奇なり…。。。
その真実を解明するのが、私の仕事なんですけどね。

つづく。

2011年1月11日火曜日

フィールド調査in SCB(2)

さて、実は前回のイサベラでは十分な成果が得られず、ガイドに対していろいろと不満が残る経験をしました。調査にはかなりの手間と、相当のコストがかかっています(あと体力・気力も)。帰ってきてから植物研究部の研究者Pattyにちょっと愚痴をこぼしたところ、サンクリストバルで継続的に調査をしている彼女は
「だったらいい人を紹介するわよ!!!」
と、彼女と組んで仕事をしている国立公園職員のJefelysにアポイントメントを取ってくれました。

英語はちょっとしかできないけど、彼の頭の中にはどこになにが生えているのか、全部インプットされているらしい。
それは助かりすぎる!というわけで、正式に事務を通して依頼してみると、二つ返事でOK。これでサンクリストバルの調査はうまくいく予感!

…というわけで、前述のようによれよれの状態でとりあえずの生還を一人で祝ってからドックにあがると、そこはプエルトアヨラとも、イサベラとも全く違う、落ち着いた街がありました。さすが、歴史の古いガラパゴス州の州都なだけはあります。
ここは諸島で唯一の信号機のある交差点。

そこら中にアシカが寝ているので、うっかりすると躓いてしまいます。人口は約5000人。アシカは500頭。柵を作っても家の中にまで入ってきてしまうそうです。

 
ところでなんでアシカを「Sea Lion(スペイン語ではLobo de Mar:海のオオカミ)」というのでしょうか?ただ転がっているアシカがそんなに獰猛には見えないけれど…?

たぶん、その答えはこれです。
あの転がっている動物と同じとは思えないほどのとがった爪と牙。そしてオスはかなり凶暴で、しかもよく吠えています。体も大きいので、突進してこられると恐怖です。…あーこわ。もうあまり近寄らないことにします。

ホテルについてしばらくすると、Jefelysが訪ねてきてくれました。対象種の話をすると、テキパキとどこへ行くか日程を提案してくれます。頼りになる~(イサベラの人とは大違い!)明日からの打ち合わせをして、今日はおやすみなさい。

2011年1月6日木曜日

フィールド調査in SCB(1)

今日からは、もう1つの居住地域がある島、サンクリストバル島へのフィールド調査のお話です。

そのまえに…
もともと船はこの世の乗り物で最も苦手なのですが、実際それを交通手段とする以外に方法がないというのは、想像を絶するものがあります。数々の命を懸けた経験の積み重ねで、大丈夫かどうかのぎりぎり境目で生還するという荒業を身につけたのですが、いつも同じ状況にあるわけではないので難しい(座る位置とか、体温調整とか、風による疲れとか)。

今回、行きはキャビンで激揺れ、あちこち打ち付けて打撲(波頭からの大ジャーーーンプってやつです)、帰りはその教訓を生かして外にいたのですが、時折頭から波をかぶり、果ては沖(っていってもここは太平洋の真ん中)でエンジン停止。波間に漂うとすぐに酔うので、停止しそうになった瞬間に首に巻いてたタオル(これも命がけの結果身についたエクイップメントの一つ)で呼吸器系をガード(まずはオイル臭いので酔う)、続いてポケットに常備している酔い止めを口に放り込み、ベルトを緩める。周囲ががちゃがちゃしだすころには石のように目を閉じて寝たふり。これでどうにか修理が終わるまで持ちこたえました。。。いやー、もっとかかるかと思ったよー。早かった。

…そんなこんなでおかげさまで毎日、エキサイティングな経験をさせていただいております…

ほかにも風化した溶岩台地を歩くのは連続2日が限界のようで、注意力が散漫になって危ないし(あとで書きます)、

基本乾燥地なので攻撃的な植物が多く、
刺し傷切り傷擦り傷打撲と、軽傷のオンパレードです。今回あとあと考えると結構危ないこともあったのですが、ま、終わってみればお湯がしみる程度なのでまあいいや、ということにしておきます。痛いのも生きている証拠さ。

そう、これが「フィールドワーク」ってものなんです。
フィールド系研究者と話をしていると、どこでどんな体験をした、という話で盛り上がってしまいます。だからいざ目の前に大きな難問が立ちはだかっていても、どうやってネタにしてやろうか、と挑戦的に考えてしまう人が多いような気がします(笑)。

でも同じ人生、どんな状況でも楽しめてしまうんだから、いいですよね。そして得られた教訓や経験て、ぎりぎりの体験だからこそ記録も残せなくて、その場にいないとわからない自分だけの貴重な武勇伝になったりするものです。そうやって新しいこと、まだまだ知らないことに一つずつ挑戦できるから、この仕事、楽しいなあと思えるのかもしれません。

というわけで、独り言みたいになってしまいました。
つづく。

2011年1月1日土曜日

¡ Feliz Año Nuevo !

「経験が人を創る」

大学生の時に出会い、いまだ座右の銘としている言葉です。
数々の経験を通して、人間は成長します。だとすると、私はここでの経験でどのように成長できているのでしょうか。

ここでの滞在中にどんな感動があるのか?毎日、自分を創り上げてくれる体験を探しながら、あと8か月、頑張りたいと思います。