2011年7月27日水曜日

Estoy en el Herbario(4)

3回シリーズでこの話を終わるつもりでいたのですが、急遽所変わって日本の話をします。

標本庫には、自然史学者の宝と夢が詰まっている。という話をしました。
どこの標本庫にも、その地域独自の宝と夢が詰まっています。そしてそこは過去から現在までの地球環境を保存しているという意味で、人類全体にとっての財産であるといえます。

しかし東日本大震災ではそんな標本庫にも容赦なく津波が襲いました。たとえば陸前高田市立博物館では、博物館自体が倒壊、職員は全員死亡か行方不明、当然標本は流失しました。これまでコツコツと50年以上も貯めてきた貴重な標本が一瞬でなくなってしまった…この損失はいかばかりか計り知れません。

4月中旬から岩手県立博物館職員を中心として瓦礫撤去と標本の救出が始まりました。そしてどうにか発掘された標本が、現在全国のネットワークを通して各地の博物館職員の手によって修復されています。標本の状態は潮をかぶっていたり、土砂で埋まっていたりとひどいものが多いのですが、どれもかけがえのない標本です。




濡れて1か月以上も放置されていたので、カビが出たり破損していたり… コンディションに応じて試行錯誤。


→標本レスキュー作業の様子はこちら。
◆ひとはくブログ(兵庫県立人と自然の博物館)



→こうして修復された標本の展示が、各地の博物館で行われています。
◆「津波被害にあった標本を救おう」展(兵庫県立人と自然の博物館)

他にも、本学知識工学部が大学パートナーシップに入会している国立科学博物館(上野)でも常設展の一角で展示が行われています。学芸員課程の科目を履修している学生さん、自然科学科の学生さんにとっては非常に貴重な機会ですので、ぜひ見に行ってください。後期開講の博物館学(3)にも関連します。

このような被災標本のレスキューは世界初。この修復技術の蓄積は、今後の災害への貴重な情報になるはずです。
もしも、ですが、私が大学院生時代の希望通りに博物館に就職していたら…16年前とは違う方法でもまた、災害支援に関われたのではないかと考えさせられました。


さて、ダーウィン研の標本庫も標高0mに建っており、昨年のチリ地震の津波でも今回の地震の津波でも直接の被害はかろうじてなかったものの(職員の公舎や一部の研究棟は被害を受けた)、いつ被災してもおかしくない状況にあります。もしこのガラパゴスの貴重な財産が失われでもしたら…
ここは地震や台風などの自然災害が多くない土地柄なのであまり危機感もないでしょうし、移転はさすがに検討してはもらえないだろうけど、でもこれだけ甚大な被害を受けた日本国から来ている人間としてなんらかの提案だけはやってみようと思います。大事な財産を未来に継承していくことは、この業界で仕事をしている研究者の使命ともいえますから。

最後に…
今回の災害では非常に多くの人命が奪われ、街も壊滅的な被害を受けました。しかし人間だけでなくそこに住む多くの生物たちも、この津波で深刻な被害を受けていることを忘れないでください。海に瓦礫が流れ込み、浅瀬に棲む生物たちは無事に生きていられるでしょうか。陸地の大きな改変の後には外来種がいち早く定着するでしょう。在来種は戻ってこられるのでしょうか。自然環境の回復なしに、人間の真の復興はありえません。なぜなら、人間の生活の基盤は自然にあるからです。今、関係各所は生物多様性を維持・共生しながら復興を目指す方法を模索しています。目先のことも大事ですが、長い目で見てより良い復興がなされることを願っています。

被災された方と被災地の、一刻も早い復興をお祈りいたします。

資料協力:兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員 布施静香博士

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