2011年4月28日木曜日

$3,300の大冒険(4)

*無人島の道しるべ

さて、ノバリノが自信満々に進んでくれるおかげで、私はルートに関しては全く気にしていませんが、実は彼の方向感覚というのは特殊技能なのではないかと思っています(以前SCBのジェフェリーにも同じことを思ったわけですが)。

例えば私が元々フィールドとしていたような熱帯林であれば、一度ルートをとれば道がはっきりとできるわけで、そこ以外は樹が茂っているので通ることができない=迷わないわけですが、ガラパゴスのような乾燥地では行く手を遮るような樹林がないので、言い換えれば「どこでも道になりうる」=「簡単に迷う」ということになります。今日自分が進んだ道を識別するために、ノバリノはマチェテで樹を切りながら道を創っていきますが、私はすぐにその道をロストします。切った樹木は炎天下すぐにしおれるので、周囲の枯れ木枯草と見分けがつかなくなってしまうのです。

そんなときに役割を発揮するのが、若干19歳のアシスタント学生アデラで、彼女はまだ若いのにそのあたりをよく心得ていて、私たちがサンプルを取っていてノバリノと距離が開いてしまったときに、ちょうどどちらも見える中間地点で待っていてくれます。
左の端に彼女が見えるのわかります?

ちなみに一応古くから使っている決まったルートも一応存在し、その道しるべはこんな感じになっています。
…なるほど、、、木の枝に溶岩がはさまっているとか、通常ではありえない自然現象を用いることで良く目立ちますねえ。しかもこれなら岩が風化するまで、樹が倒れるまで、長く使えそうです。(通常のテープなどでは紫外線が強すぎてすぐ劣化してしまう)

とにかく、こういう島で迷子になったら命にかかわります。ノバリノはいったいどうやってあの感覚を身に着けたのでしょうか。うらやましい…


*万年熱中症。

日ごろ汗をかきにくくて体温調節が下手、自称「変温動物」な私ですが、さすがにここでは滝のように汗が流れます。その分を補おうと水をガブガブ飲み続けることになるのですが、一向に脱水が解消されません。塩分補給のスポーツ飲料はすでに沸かしたかのような温度。炎天下、体温も上がりっぱなし。本当に気を付けていても、どうしても熱中症になってしまいます。
どなたかいい方法をご存知でしたら、ご一報ください。

こんな炎天下、土壌もろくにない溶岩の隙間に根を下ろす樹。すごいですよね!
よく「ど根性大根」とか話題になりますが、根性があるんじゃなくて…
植物はそこから動けないから、そうやってでも生きるか、それとも枯れるかというギリギリの選択をしているんです。私たちはイヤな環境からスタコラ逃げ出せる動物であることを頭の片隅に入れておくと…いいと思います(含みを持たせて。笑)。


*0mからの価値。

日本では、山に登るといっても完全な海(0m)から登るということはあまりありません。山の標高は海水面からの高さで表記するので、たとえば富士山は海水面から3776メートル(Meter Above Sea Lebelm.a.s.l.と表記する)。でも多くの人が登山を開始する五合目は既に2300mほど。

ピンタ島は標高こそ635mですが、なにしろパンガから海辺の岩に飛び移る瞬間から登山が始まります。
なのでその充実感たるや、なかなかのものです。
ふしぎな地形…帽子みたい。
(上陸のシーンで目の前にあった小山です)
自分の足で登るって、大変だけどイイですね。
いや、イイけど大変ですね、かな。(再び軟弱発言;)

つづく。

2011年4月23日土曜日

$3,300の大冒険(3)

*ヨウガンサボテン。とんでもない破壊工作

海岸沿いのガラガラ溶岩のところには、ヨウガンサボテンが生えている予定です。うん、あるある。

しかし…
こんな場所で一生懸命生長しているサボテン、採ったらバチが当たりそう…それにこの攻撃的なトゲ。ウチワよりハシラより、とてもとても攻撃的に見える…

しばしサボテンの前で考え込む私。
せっかくこんな遠くまで来て、もう2度とないかもしれないピンタ、今とるべきかとらざるべきか…

うーん、採ろう。許してくれ。
剪定ばさみは使い物にならず、ノバリノが器用にマチェテで切り出します。
Esta?」「No, mas pequena!」「uhh...esta?」「Si....

彼は私の意図したことが分かったのか、できるだけ大きい株の、できるだけ小さい1本を選んで切り出してくれました。
袋には、ゴロゴロと攻撃的なサンプル。

こんなに破壊してごめんなさい。必ず、何か結果出します。
とサボテンに誓う私でした…


*犬も歩けばホオズキに当たる

さすがにこんな攻撃的なサンプルを持ったまま山を登るのは自殺行為、というわけでサンプルたちにはしばし木の根もとでお待ちいただき、いよいよ高地を目指します。と歩を数歩進めては止まってしまうその理由とは…
いちめんのホオズキ、いちめんのホオズキ、いちめんのホオズキ…(元ネタは山村暮鳥)
ガルア季にあれほど探してもどこにもなかったホオズキが、そこら中に生えているのです。やっと出会えたね!
ピンタでは2種類(Physalis angulata, P. pubescens、いずれもNativa)があるはずです。片っ端から葉をひっくり返して、どちらなのか確認しながら歩きます。砂浜からしばらくはずっと10角形のangulata, 少し標高が上がりより日差しと乾燥がきつくなってきたら今度は葉の表面が毛むくじゃらのpubescensに変わりました。気にしていなければほとんど変わらない緩い環境傾斜ですが、どちらも過酷な環境でしおれながら生きており、葉の表面からの蒸発の違いがこのような棲み分けにつながっているのではないかと思われます。

それにしても、やっぱりホオズキかわいいなぁ。

つづく。

2011年4月17日日曜日

$3,300の大冒険(2)


*いざ出陣

今回は無人島なのでいつもよりも慎重な検疫が行われました。といっても、島にキャンプを張るわけではないので、まだまだ簡単なもの。24時間Quarantine roomに荷物を保管する必要もありません。これでいいのかなぁ、ほんとに…こっちが心配になってしまいます。

夕方6時。いよいよ無人島へ出発です。
ダーウィン研の備品のサテライト電話、無線機、上陸時の電気機器類保護用のドライバッグ、そしてマチェテを担ぎ港まで行くと(なんかすごく大げさに聞こえるけど、どれもみな緊急時に命を救う小道具ばかり!)、さっき打ち合わせたキャップがパンガで迎えに来てくれました。プロジェクトメンバーとして登録のある夫Shige、アシスタント学生のAdela、無人島の達人Novalinoとともに、「私が貸し切った」船へ乗船!(かっちょいい…)

船はゆっくりと動き出しました。夕暮れ、徐々に暗くなり、街の明かりが遠くになるころ…
私とShigeは早くもダウン、公共スペースの椅子に倒れこんで薬を口に放り込み、意識を失ったのでした。
薬が効き始めると、突然船の揺れが心地よくなるのね…とぼーっとした頭で思いながら…風が冷たくても窓を閉めるために起き上がることもできず…おやすみなさい。

ああ軟弱ニホンジン。分厚い数学の本を取り出して勉強を始めたアデラ、あなたを尊敬します…


*目の前に迫る山へ登れ

翌朝、8時。すでに13時間半が過ぎたころ。
本当はそのまま倒れていたいけどそういうわけにもいかないので起き上がってみると、静かな静かな、文字通り人っ子一人いないピンタ島が海の向こうにありました。

船で朝食を済ませ、いざ出発です。キャップの操るパンガで波打ち際へと向かいます。ドライなのかウェットなのか?我々がしっかり靴を履いているのを見てか、岩場にドライランディングを試みてくれました。が、とても危険…

とりあえず無事に上陸し、目の前の山を見据えます。ここは活火山。標高は635m
どこまでいけるのでしょうか、そしてどの程度の成果が得られるのでしょうか。
それよりまずは、この遠く離れた無人島という希少性を満喫したい…


*いきなりオイスターキャッチャー

波打ち際の岩場に植物のかたまりが生えているのをみて、私はこれが自分のサンプルのうちの一つだということを直感的に判断しました。一人でよっていってみると、そこには確かにTrumpeta de orillaが。さっそくあったよー、と声をかけようと顔を上げると、
…視線の先で2羽のオイスターキャッチャーが私を見つめていました。
真っ黒な体に真っ赤なくちばし。「絶壁」と表現されそうなバランスの悪い頭の形。「American Oystercatcher」なので広域分布種かと思ったら、亜種レベルで固有なのだそうです。
むふ。かわいい。
お邪魔してごめんね。

つづく。

2011年4月12日火曜日

$3,300の大冒険(1)

*そうだ、無人島へ行こう

ガラパゴス諸島には13の主要な島と、もっと小さな100以上もの島々が存在します。その中で人間の居住区があるのは4つの島だけ。他はすべて無人島です。
生物地理学的な研究を行うためには、当然ながら居住区がある島だけでは用が足りません。しかし無人島へ行くには相当の覚悟と煩雑な手続きと、お金が必要です。さて、どうしたものか…。

これまで居住地域を持つ島へのフィールド調査を地味~に行なってきてそれなりの「感覚」がつかめてきたので、そして雨季になり死ぬほど強い紫外線の代わりに青々と植物が茂るようになったので、今こそが無人島へ行く絶好のチャンス☆というわけで…
これまで調べつくしてきた標本データと図鑑を駆使しながら、どこの島のサンプルが「本当に」必要なのかを割り出します。
もちろん当初の計画ではすべての島へ行こうと思っていたんです。でもそれはあまりにも現実離れしていることが理解できるようになったので…

よし。決めた。規模は縮小せざるを得ないけど、ここと、ここと、ここへ行こう。


*ピンタってどこ?ガラパゴス人が知らない島

私「来週、ピンタ行きたい」
ソニア「Muy bien. じゃあ船の手配はオリバーがやるから打ち合わせて、あとセキュリティーの書類も送って。こっちはフィールド調査の許可証とサンプル移動の許可証作るからサインして…。あとルートを知ってる助手と、アシスタント学生(*)へ連絡をするから…」
*外部からの研究者は必ずエクアドル人学生をアシスタントとしてつける必要がある。一緒にフィールドへ出ることで、地元の学生が将来的に研究を行ったりダーウィン研で働く場合の経験になるので、育てる意味合いがあるらしい。

事態は私の一言で、いつも急速に展開します。(というか、顔を見ながらやってもらわないと後回しにされる)
いつもこの辺りから先は自分が意図しないほど急速なので、時々頭がついていかないことも…

オリバー「船は片道12時間。夕方出て、次の朝ピンタについて、一日島に入って、また夕方出て、次の朝に帰着。食事等込みで$3300。どう?高い?」

高いかって、そりゃ高いに決まってる。でもそれが相場なのかどうなのかもよくわかりません。

「キャップが言うには、一日$1100なんだって。で、全部で3日だよね、Right ? だから$3300。」
うーんと、正確には21日なんだけど…でも拘束時間と実働(夜中に彼らは仕事するわけだし)だから3日でしょうがないのかな。もういいや、それで。
Si.」…

船の手配を無事済ませ、ソニアのところに戻ると、彼女は壁に貼ってある地図を指さし、
「ところでピンタってどこ?」
えええええーーー。
確かに人間が住む島から最もと言っていいほど遠く離れてはいるけれど、そしてその地図には遠すぎて載っていないけれども、でもかの有名なロンサムジョージの故郷よ?ガラパゴス人が知らないなんて、そんな馬鹿な。
「ああ、もっと遠くなのね、しらないわぁ~」…そうすか。びっくりです。

ちなみに後日、うちの大家さんにも「ピンタ行ってきたの、で、それどこ?」と言われた…。軽くショックです…。

つづく…

2011年4月7日木曜日

研究者の意識

¡ Hola !
サンプルを刻んでいる写真を載せてしまった手前、ここでの研究の許可関係について少々ご紹介する必要性がありそうです。あまり面白くもない話ですが、お付き合いください。

私はVisiting Scientistとしてダーウィン研究所に所属しています。そのために国立公園(Parque Nacional Galapagos; PNG)の厳しい書類の審査を経て正式な研究許可を得ており、調査の過程においても11回フィールドワークの許可証、サンプルの島間移動の許可証を得、荷物の検疫を経ているので、先のような「破壊工作」が(一応)許されています。

無人島でキャンプを伴う調査を行った時の廃棄物は「BIOHAZARD」のごみとして処理される

研究者の多くは、その立場と研究という大義名分を盾に、目につくものに手を伸ばし、研究のためと称して勝手に持ち帰ったり、破壊したりする傾向があります。もちろん研究においては標本こそが唯一の「証拠」であり、これを記録し、保存することは非常に大事なことです。
しかしそれはなんの規制もない場所でのこと。ガラパゴスでの研究はそうではありません。ここは世界自然遺産かつ国立公園。そのため国立公園が示す条件をクリアしたものだけが研究することができるのです。これは日本の国立公園でも同じですね。

私の場合、200912月に海外派遣の話が浮上し、その後3月までかかって文献や図鑑、論文等から必要な情報を拾ってプロポーザルを書きました。申請は研究開始の最低6か月前までに行う必要があり、結局リビジョンで戻ってきたのが7月半ば、修正して再申請し、正式な許可が下りたのは8月下旬というタイトさでした。しかもその内容は、概要、目的、手法、予測される結果、種名、必要サンプル数、調査地点などを詳細に記述する必要があり、これをもとに発行された許可証に記載されているもの以外、一切採取することはできません。また得たサンプルは持ち出しのためのチェックがあり、サンプル1つ1つ(たとえば葉っぱの数82枚、花16個、など)を丁寧に数え上げ、書類に15個と書いてあるのに1つ数が多いじゃないかと指摘されるほど厳重なものです。加えて持ち出したサンプルは研究が終了したらダーウィン研に返却する義務があります。もちろん変なことをして見つかれば、永久追放でしょう。

これが意味することはなんなのでしょうか。
ガラパゴスという場所が、他に類を見ないほど「脆い環境」であるということ。また世界遺産、国立公園という非常に貴重な自然を残した場所であるということ。保全のための調査研究でさえも慎重になっているということ。研究が最後の破壊となってしまわないよう、私たち研究者には重大な責任がかかっているのです。先日いらっしゃった3名のお客さんは、私がもっとここで優遇されていると思っていたそうです。しかし研究に対しても非常に厳しいガイドラインがあり、行動も規制されていることを知って大変驚いていました。私たち研究者は、研究という行為が特別なもので、そのためであれば何でも許されるという意識を変える必要があります。許可関係が厳しくて研究がとても不自由であっても、それは我慢すべきことです。
(ただし一方で、general collectionが認められていない現状では、今後の基礎科学の研究に支障をきたすであろうことが想像できます。危機遺産からは脱したものの、どこに着地点を見出すのかは今後の課題になりそうです。)

ガラパゴスは貴重な自然を見ることができる場所として、年間17万人(2010年)もの観光客が訪れる観光スポットになっています。観光客が増えれば、その目的や意識の持ち方に差が出てくるのは当然ですが、先日、ダーウィン研究所内のゾウガメに座って写真を撮ろうとした大人がいたのには驚きました。

ピンタ島最後の生き残り「ロンサムジョージ」

もしこれからガラパゴスに来ることを考えている方がいるなら、この辺りの事情をよく考えて、国立公園認定のガイドの指示に従い、「自分だけなら大丈夫」という概念を捨てて、ここでのルールに則って行動するようにしてください。

この不思議な生物の楽園が、これからも人々の目を楽しませてくれる自然であり続けられますように。

¡ Chau !

PS.
ここ数日、いよいよ雨季が終わりに近づいているのか毎日午後になると激しい雨が降ります。全体的に雲が多いので、ついこの前みたいな炎天下で野垂れ死にしそうな直射日光がなくなり、ずいぶん過ごしやすく感じます。
「雨季の終わりには降雨強度が強い雨が多く降るようになる」というのは水文学では一般的な知識ですが、年降雨量500mmのこんな場所でも同じような現象が起きていることに驚いています。でもそういう瞬間に外にいると傘なんて役に立たなくなるので恨めしい。家の中で鑑賞しているのが好きです。
今日は午後から滝のような雨と雷。こんな日には家の中で、半年計測していた気温と湿度のデータをいじくりまわして遊んでいます。

PS2.
休みの間、手伝ってくれていた夫が帰国しました。混乱の日本、新学期の始まりも5月になったので、なんならあと1か月いてくれてよかったんだけどなぁ…実験室の人だったのが、たくましいフィールド屋に転向しました!?
またよろしくね~。Gracias.

2011年4月1日金曜日

途方に暮れています…

¡ Hola !

何に途方に暮れているかというと…
料理しようというのではありません。れっきとしたサンプルです。貴重な固有種です。

ヨウガンサボテン(Brachycereus nesioticus)は、ガラパゴス諸島の中でも5島(イサベラ、フェルナンディナ、サンチャゴ、ピンタ、ヘノベサ)の、まだ風化がそれほど進んでいない溶岩台地にのみにょきにょきと生えるサボテンです。


しかし、ごらんのとおり、トゲだらけ(そりゃそうだ)。どこから手を付けていいものかわかりません。。。
無人島の地形に精通したスタッフ、ノバリノは、マチェテ(鉈みたいの)で器用に1本ころり。。。しかし、痛くて拾えない。

どうにか持ち帰って、でも剪定鋏では到底太刀打ちできず、包丁の出番と相成ったわけです。
包丁でも、トゲがすごすぎて切ることもままならず…しかもとれたトゲがその辺に散乱。うっかり刺さったら大変です。

>と思ったら、包丁で切った拍子にこっちに向かって飛んできて…痛いです。しかも傷になったところが、消毒しても腫れてます(泣;;)
サボテンの逆襲~~~
DNAサンプルは急速に乾燥させる必要があるのですが、何しろ乾燥地に生える保水システムを持った植物体。これを乾かすのに一体どれだけのシリカゲルが必要なんでしょうか…


というわけで、めでたくサボテンの漬物(形態用サンプル。縦断面、横断面、丸ごとの3つ)が出来上がりました???

あー、なんかもったいない。こんなものが手元にあるなんて、なんて贅沢なんでしょう。でもとても大きな破壊をしてきた気がする。

これの採集地、ピンタ島の採集記は、また後日。

¡ Chau !