2011年4月7日木曜日

研究者の意識

¡ Hola !
サンプルを刻んでいる写真を載せてしまった手前、ここでの研究の許可関係について少々ご紹介する必要性がありそうです。あまり面白くもない話ですが、お付き合いください。

私はVisiting Scientistとしてダーウィン研究所に所属しています。そのために国立公園(Parque Nacional Galapagos; PNG)の厳しい書類の審査を経て正式な研究許可を得ており、調査の過程においても11回フィールドワークの許可証、サンプルの島間移動の許可証を得、荷物の検疫を経ているので、先のような「破壊工作」が(一応)許されています。

無人島でキャンプを伴う調査を行った時の廃棄物は「BIOHAZARD」のごみとして処理される

研究者の多くは、その立場と研究という大義名分を盾に、目につくものに手を伸ばし、研究のためと称して勝手に持ち帰ったり、破壊したりする傾向があります。もちろん研究においては標本こそが唯一の「証拠」であり、これを記録し、保存することは非常に大事なことです。
しかしそれはなんの規制もない場所でのこと。ガラパゴスでの研究はそうではありません。ここは世界自然遺産かつ国立公園。そのため国立公園が示す条件をクリアしたものだけが研究することができるのです。これは日本の国立公園でも同じですね。

私の場合、200912月に海外派遣の話が浮上し、その後3月までかかって文献や図鑑、論文等から必要な情報を拾ってプロポーザルを書きました。申請は研究開始の最低6か月前までに行う必要があり、結局リビジョンで戻ってきたのが7月半ば、修正して再申請し、正式な許可が下りたのは8月下旬というタイトさでした。しかもその内容は、概要、目的、手法、予測される結果、種名、必要サンプル数、調査地点などを詳細に記述する必要があり、これをもとに発行された許可証に記載されているもの以外、一切採取することはできません。また得たサンプルは持ち出しのためのチェックがあり、サンプル1つ1つ(たとえば葉っぱの数82枚、花16個、など)を丁寧に数え上げ、書類に15個と書いてあるのに1つ数が多いじゃないかと指摘されるほど厳重なものです。加えて持ち出したサンプルは研究が終了したらダーウィン研に返却する義務があります。もちろん変なことをして見つかれば、永久追放でしょう。

これが意味することはなんなのでしょうか。
ガラパゴスという場所が、他に類を見ないほど「脆い環境」であるということ。また世界遺産、国立公園という非常に貴重な自然を残した場所であるということ。保全のための調査研究でさえも慎重になっているということ。研究が最後の破壊となってしまわないよう、私たち研究者には重大な責任がかかっているのです。先日いらっしゃった3名のお客さんは、私がもっとここで優遇されていると思っていたそうです。しかし研究に対しても非常に厳しいガイドラインがあり、行動も規制されていることを知って大変驚いていました。私たち研究者は、研究という行為が特別なもので、そのためであれば何でも許されるという意識を変える必要があります。許可関係が厳しくて研究がとても不自由であっても、それは我慢すべきことです。
(ただし一方で、general collectionが認められていない現状では、今後の基礎科学の研究に支障をきたすであろうことが想像できます。危機遺産からは脱したものの、どこに着地点を見出すのかは今後の課題になりそうです。)

ガラパゴスは貴重な自然を見ることができる場所として、年間17万人(2010年)もの観光客が訪れる観光スポットになっています。観光客が増えれば、その目的や意識の持ち方に差が出てくるのは当然ですが、先日、ダーウィン研究所内のゾウガメに座って写真を撮ろうとした大人がいたのには驚きました。

ピンタ島最後の生き残り「ロンサムジョージ」

もしこれからガラパゴスに来ることを考えている方がいるなら、この辺りの事情をよく考えて、国立公園認定のガイドの指示に従い、「自分だけなら大丈夫」という概念を捨てて、ここでのルールに則って行動するようにしてください。

この不思議な生物の楽園が、これからも人々の目を楽しませてくれる自然であり続けられますように。

¡ Chau !

PS.
ここ数日、いよいよ雨季が終わりに近づいているのか毎日午後になると激しい雨が降ります。全体的に雲が多いので、ついこの前みたいな炎天下で野垂れ死にしそうな直射日光がなくなり、ずいぶん過ごしやすく感じます。
「雨季の終わりには降雨強度が強い雨が多く降るようになる」というのは水文学では一般的な知識ですが、年降雨量500mmのこんな場所でも同じような現象が起きていることに驚いています。でもそういう瞬間に外にいると傘なんて役に立たなくなるので恨めしい。家の中で鑑賞しているのが好きです。
今日は午後から滝のような雨と雷。こんな日には家の中で、半年計測していた気温と湿度のデータをいじくりまわして遊んでいます。

PS2.
休みの間、手伝ってくれていた夫が帰国しました。混乱の日本、新学期の始まりも5月になったので、なんならあと1か月いてくれてよかったんだけどなぁ…実験室の人だったのが、たくましいフィールド屋に転向しました!?
またよろしくね~。Gracias.

2 件のコメント:

  1. こんばんは!お久しぶりです.

    研究や研究室というものがどのようなものかもわからない大学3年生ですが,まもなく事例研究という授業が始まります.
    その分からない研究も研究するんだなと思うとわくわくしてしまって,今から楽しみです.

    ただ研究員が"研究のためだから"で済まないことも有ることを踏まえ,それをしなくてはいけないと考えさせられました.

    これからも研究やブログがんばってください!!

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  2. こんにちは。コメントありがとう。
    これから研究を始める学生さんに、いろんな側面があるということをわかってもらえてうれしいです。
    …でも、ブログはあまり頑張ってないです(笑)。

    ちょっと説教臭くなりますが、事例研究(1)で生命科学コースに来る学生さんたちに直接伝えられないのでここで一言。

    研究というものは「考えること」が命です。
    実験の作業をこなすだけなら誰にでもできます。じゃあ何がオリジナルなのかというと、研究の発想と、出てきた結果を考察することなのです。

    大学生というのは卒業研究を始める前までにたくさんの科目を履修する必要があるわけですが、言ってみたらそれは「考察するための手段(=知識)を身に着ける」という過程だったわけです。得てきた知識を元にいろいろと考える訓練をして、卒業研究を大いに楽しんでください。

    知識の集積も、考える訓練にも終わりはなく、私もまだまだ修行途中です。みんなでお互いに切磋琢磨していきましょう。

    H先生から、3年生はずいぶん成長したという話を聞いています。9月には、ぜひ大きく成長した(!?)みなさんに逢えることを楽しみにしています。

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