2010年12月13日月曜日

テントウムシの話

¡ Hola !

突然ですが、オレンジといえば、サンタクルス島のオレンジの木はまっくろです。
外来のカイガラムシが住みついて蜜を分泌するのでこんなにすすけたようになってしまっているのです(でも完全無農薬栽培なので安心!)。

でもイサベラのオレンジの木はこんなにキレイ。
カイガラムシが少ないのです。

一般的なテントウムシはカイガラムシを捕食するのですが、ガラパゴス固有のテントウムシはしません。
星のない在来のテントウムシ。

カイガラムシが農作物にくっついて大陸から渡ってきたとき、そこは天敵のいない天国だったようです。しかしそのままでは農業に被害が出るばかりか、生態系をかく乱してしまいます。
そこで目を付けたのが、「外来の」テントウムシです。カイガラムシの天敵を放せば捕食してくれるだろうという考え方です(生物学的防除といいます)。
しかし当然そこには大きな問題があります。「外来の」テントウムシを輸入することで、さらに生態系がかく乱されたりはしないのかーーー

そこでテントウムシ導入のための壮大な実験が始まりました。在来のテントウムシとの競合はないのか、他の生物に対して影響はないのか、カイガラムシだけに効果があるのか……実に6年もの実験を経て、すべての条件をクリアしていることが確認でき、テントウムシの導入が決定されました。今ではせっせとカイガラムシを食べてくれています。
(またこのとき研究所だけではなく農業従事者にもこの取り組みに参加してもらうことで、いかに外来種が問題であるのかということ、きちんとした対策をとることで自分たちにも利益があるということを身をもって理解してもらえたようで、その後の外来種対策に重要な意味を持つ成果をあげることができました。)

このように、外来種対策はあらゆるマイナスの可能性を排除したうえで決定される、気の遠くなるような作業です。現在、侵略的外来種ブラックベリーを効率的に成長阻害する菌類の研究が行われており、もうすぐ実用化する見通しです。

ところで、イサベラ島のホテルで、中米在住で農業系の仕事をしている韓国人二人組に会いました。彼らは昆虫の研究をしているそうで、ガラパゴスの昆虫相にも関心を持っていました。対象が植物である私と、昆虫である彼らが、進化的観点で同じ発想を持っていることに驚き議論が弾んだのですが、昆虫は植物と同様に簡単に交雑するらしく、いわゆる「浸透性交雑(遺伝子汚染)」が起きているのではないか、形態的にハイブリッドのようなものがいた、と聞いてまたまた驚きました。

さて、テントウムシは交雑しないのか
科学とは本当に難しいもので、ある時点であらゆる観点から検討を行ったと思っていても、新たな解析技術や考え方ができた段階でそれは「完全」ではなくなってしまいます。しかし一旦野外に出て行った生物たちを回収することはできません。また「~である」ことを証明するのは簡単ですが、「~ではない」ことを証明するのは非常に難しい。あらゆる可能性をすべて否定したときにだけ「~ではない」ことが証明できるからです。

生物の研究に携わる者として、「改善」のつもりで行ったことが「改悪」になってしまうことの恐怖。よく環境問題について、「学者や政治家はそうなることは予想できたはずなのになんでそうしなかったんですか」という質問をもらうことがあります。ここで大きな声で言っておきたいのは、(少なくとも学者は)その時点では予測にしたがって良かれと思ってやっているということ。あとから非難するのは簡単ですが、その時点での最善を尽くしていても、違った結果をもたらしてしまうこともあるものなんです。アインシュタインの研究が原爆開発のきっかけになってしまったといわれていることと似ていますね。

というわけで、私の研究はどちらかというと政治・経済・社会的に影響力も持たない(はず)なので少しは気が楽ですが、それでもやはり今のベストを尽くしていきたいと思います。

¡ Chau !

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